The DAOとイーサリアムは、なぜ何もすべきでないのか

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The DAOの脆弱性が突かれ発生した事件から2週間が経った。いまだ対応策が定まっておらず、イーサリアムとThe DAOのコミュニティの進退に関して余談を許さない状況が続いている。最悪のパターンでは、イーサリアムネットワークから大部分のマイナーが撤退する憂き目に合う可能性すらあり、なんとしてでも巻き返しを図りたいといったところだ。

The DAOとはイーサリアムのネットワークを間借りし、スマートコントラクトと呼ばれるコンセプトを活用した非中央集権型のクラウドファンディングプラットフォームだ。ICO開始から1ヶ月で当時1.5億ドル相当のEtherを調達し、ハッキングによってその3分の1の5000万ドルが奪われた。The DAOのコードの制約上、現在はスプリット(分割)先の子DAOに留まっている状況であるものの、約2週間後に引き出せるようになる。対策を講じるにしても、講じないにしてもーーーイーサリアムの開発陣は、この2週間で回答を出さなければならない状況だ。

今回の事件の解決方法には、大別して3つの方法が提示されている。

一つ目は、「何もしない」。つまり、強欲なハッカーの勝ちを認め、Etherの引出しを許容するという選択肢だ。ハッカーは「コードが法なのであれば、脆弱性も正当化される」との声明を出しており、The DAOの支持者らはこれに対して強い反発を示している。二つ目は、子DAOからの引出しを不可能とする「ソフトフォークを実行する」ことだが、現時点においてこれは実現可能性が低い。最新の調査により、提案されたソフトフォークのコードに脆弱性が見つかったためだ。そして三つ目の選択肢、イーサリアムのプロトコルレベルでハードフォークを実行することで、失われたEtherを元通りにすることだ。その性質上、このハードフォークは「実質的なロールバック」と呼ばれている。

The DAOプロジェクトの失敗は既に明白だ。これは、ソフトフォークやハードフォークの実行可否に関わらず決定事項だ。その上、The DAOの失態によりイーサリアムの市場価値にもゆらぎが見え始めている(The DAOの存在がイーサリアムの相場を引き上げた節もある)。さらに、The DAOのプロジェクトメンバーらも自身のプロジェクトへと投資しており、ポジショントークなどの利益相反も見られる。イーサリアム考案者のVitalik ButerinもThe DAOへの出資を行なっていることが白日の下に晒されており、コミュニティの一部はイーサリアムに対する評価を変え、「Proof of Vitalik」だと批判している(Vitalikの意思決定ですべてが左右されることの意)。

本件に対してはイーサリアム・コミュニティだけでなく、ビットコイン・コミュニティの面々も大きな関心を寄せている。分散型の合意ネットワークの形成においては、本来開発者の恣意でプロトコルに変更があってはならないためだ。過去、ビットコインにおいてもプロトコルにバグが生じたことでハードフォークによるロールバックを実行したことがあるが、本件は極論、ソフトウェア上のバグであるため、本質的に問題が異なっている。しかしながら、それでも暗号通貨の教訓として、イーサリアム・プロジェクトが下す決断には注目しているのだ。

The DAOの事件に関してビットコイン・コミュニティからはいくつかの意見が寄せられた。その内容の一部を紹介したい。・

Marek Palatinus氏, Satoshilabsファウンダー、Slush Poolオペレーター

「The DAOの今回の事件の代償は大きく、The DAOのプロジェクトチームは自身の非を認めるべきである。そしてイーサリアムコミュニティは何もすべきではない。なぜならイーサリアムには何も問題はなかったからだ。スマートコントラクトのバグはよくあることであり、我々はここからどのようにバグと向き合っていくかを学ばなければならない。ビットコインにおいても、プロトコルやリファレンス実装にバグを見つけた場合の対応は充分にシミュレーションする必要がある。もっとも、コイン自体のブラックリストや、ビットコインに直接関連しないバグのためにロールバックを行うようなことは言語道断だが。」

Elixabath Stark氏,Lightning Network開発メンバー

「イーサリアム・コミュニティは、長期的な視点でフォークの危険性を考えなければならない。イーサリアムは非中央集権型のプラットフォームであり、アプリケーションはプログラム通りに作動し、誰の意思にも依存しえないということを忘れてはならない。ハードフォークはThe DAOのファンドを取り戻す唯一の方法であるが、これはパンドラの箱を開けるようなものだ。フォークを許してしまえば、もしこの先に似たような事が起こった場合にもフォークの是非で議論する羽目になり、誰がそれを決定するかで揉めるだろう。そうなってしまえば、イーサリアムのシステム自体が疑われる可能性がある。もしハードフォークするのであれば、今回のみの特別措置として二度と使わない事を明言すべきだ」

Manfred Karrer氏, Bitsquare 開発者

「まず、イーサリアム・コミュニティは今より難しい問題に直面するだろう、そして今回のハッカーはとても頭が良く侮り難い。もしフォークを実行するのであれば、今後もハッカーはあらゆる手段で応戦してくるだろう。そもそもの問題点は、The DAOの開発チームが資金を集めすぎた所にある。これはハッカーに攻撃してくれと言っているようなものだ。そして、The DAOの開発者とマーケティングを担当する者との思想の違いがもう一つの原因だろう。このような実験的なプロジェクトに、1.5億ドルもの資金を集めるべきではなかった」

Samson Mow氏、BTCC COO

「イーサリアム・コミュニティは現在難しいポジションにいるが、何もしないという選択肢が最良だ。これは暗号通貨の信条に基づいた行動であり、ハードフォークもソフトフォークも、イーサリアムのブロックチェーンが書き変えられやすいということの証明になる。したがって、短期間での利益を優先するが故に全てを失ってしまうことも考えられる。ビットコインならば、個人の損失を救済するためにコードを変更するような失態は絶対にしないだろう」

ビットコイン・コミュニティにとってみれば、イーサリアムプロジェクトの行為は「信じられない」の一言に尽きると言っていい。なぜなら、ビットコインは非中央集権型の決済システムを目指したプロトコルであって、特定主体の恣意的な判断によってプロトコルが変更されることを徹底的に否定したプロジェクトだからだ。それ故に、開発の合意形成が遅いなどのデメリットがあるものの、ビットコインはそうした徹底的な保守的思想によってネットワークの価値を保ってきた。イーサリアムは元来、非中央集権型のクラウドコンピューティングプラットフォームとして提唱されたプロジェクトであり、その燃料であるEtherが必要以上の価値を持つこと自体に対する疑問もある。したがって、ブロックチェーン上のトークンに対するポリシーの違いとも捉えられるものの、Vitalikの判断次第ではイーサリアムの信用が失墜する可能性もある。

もっとも、元凶はThe DAOのお粗末なコードによる失態であって、イーサリアムはそのとばっちりを食らっただけとも言えるが、Vitalik自身が出資をしていることもあり問題を複雑にさせている。しかし、それでもイーサリアム・プロジェクトはあらゆるスマートコントラクトonブロックチェーンの根本的なアイデアを提唱しており、偉大なプロジェクトであることには間違いない。この糸をほどく最適な解が得られることに期待したい。

コメント引用:Bitcoin Magazine

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