富むプロトコル、貧するアプリケーション

本稿はユニオンスクエアベンチャーズのアナリストとして活躍するJoel Monegro氏のポストの和訳記事となります。

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今回はインターネットとブロックチェーン、この2つのプロトコルの違いについての考え方を示します。前世代の共有プロトコル(TCP/IP、HTTP、SMTP、etc)は、計り知れないほどのバリューを生み出してきました。しかし、その殆どは主にデータとして、アプリケーション層の上に再集約され、専有されています(GoogleやFacebookなどを考えてみてください)。

インターネットのスタックは、バリューがどのように分配されるかという点で、「薄い」プロトコルと「厚い」アプリケーションで構成されています。マーケットの発展に伴い、私たちはアプリケーションへの投資が高いリターンを生む一方で、プロトコル・テクノロジーへの直接的な投資は殆ど低いリターンになることを学びました。

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ウェブにおける価値の分配

ウェブにおける価値の分配[/caption]

プロトコルとアプリケーションのこの関係は、ブロックチェーン・アプリケーション・スタックでは反転します。価値は共有プロトコル層に集中し、そのバリューの一部だけがアプリケーション価値に分配されます。つまりこれは、「薄い」アプリケーションと「厚い」プロトコルのスタックです。

私たちはいま、ビットコインとイーサリアム、この2つの支配的なブロックチェーン・ネットワークを知っています。ビットコインのネットワークは百億ドルの時価総額を持っていますが、その上に構築された最も大きな企業ですら、せいぜい数億ドルの時価評価で、しかも「ビジネスファンダメンタルズ」に照らし合わせると、まだまだ過大評価と言わざるをえません。同様に、イーサリアムはパブリックリリースから1年ほどで、実際にアプリケーションが作られる前に十億ドルの時価総額に成長しました。

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ブロックチェーンにおける価値の分配

ブロックチェーンにおける価値の分配[/caption]

プロトコルトークンと共有データ層

ブロックチェーンベースのプロトコルがこうした現象を起こすのには、2つの事柄があります。1つ目は、共有データ層。2つ目は、投機的な価値を有する暗号化トークンへのアクセスです。

私は1年前、共有データ層について書きました。ポストの一部は多少古い内容になっていますが、本質は今も変わっていません。

関連記事:ブロックチェインアプリスタックにおける「共有データ層」とは何か(前編)ブロックチェインアプリスタックにおける「共有データ層」とは何か(後半)

すなわち、個々のアプリケーションがまったく異なる情報のサイロへのアクセスコントロールを行うのでなく、オープンかつ分散されたネットワークでユーザーデータを複製・保管することで、私たちは新規プレイヤーの参入障壁を引き下げることができ、結果として活気ある競争力をもつエコシステムを形成することができます。具体的な例としては、PoloniexからGDAX、あるいは他の数十におよぶ仮想通貨取引所に移行すること(その反対に、他の取引所からPoloniexに移行すること)が実に容易なことです。ブロックチェーン・トランザクションという下層のデータには、誰もが等しく、自由にアクセスすることができます。これは極めて重要なことです。

同じオープン・プロトコルの上で作られた各サービスは競争し、必ずしも協力しません。しかしそのメリットを享受して、それぞれのサービスは相互運用性を持つことになります。これにより、市場には成功するためにコストを削減し、より良い製品を作り、急進的な新しいものを発明する方法を見つけ出す強制力がはたらきます。

しかし、オープンネットワークと共有データ層だけでは、採用を促進するための充分なインセンティブがあまりにも不足しています。このギャップを埋めるために、ネットワークから供給され、サービスを跨いで利用可能なプロトコル・トークンが第二のコンポーネントとなるのです。(ビットコインにおいては取引のため、イーサリアムにおいては計算力のため、SiaとStorjにおいてはファイルストレージのため、さまざまなトークンがあります)

ブロックチェーン基盤のネットワークへの投資についてUSVの中で幾度か議論した後、アルバート(ウェンジャー)とフレッド(ウィルソン)はこのことについて記事を書きました。アルバートは、(クラウドセールなどの)事業開発や研究開発の資金調達手段として、または(トークンの価値評価を通じた)株主への価値創造手段、あるいはその両方を行う手段として、オープン・プロトコルのイノベーションを動機付けうるという観点からプロトコル・トークンを見ています。アルバートのポストは、トークンが如何にプロトコル開発を動機付けるかの理解を手助けしてくれることでしょう。

トークン・フィードバック・ループ

ここからは、私が「トークン・フィードバック・ループ」と呼ぶものを通じて如何にトークンがプロトコルの採用を動機付けるか、そして如何にトークンが価値のディストリビューションに影響を与えうるかについて焦点を当てていこうと思います。

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トークン・フィードバック・ループ

トークン・フィードバック・ループ[/caption]

トークンの価値(価格)が高騰すると、早期のスペキュレーター、デベロッパー、起業家の関心を集めます。彼らはプロトコル自体のステークホルダーとなり、その成功に賭けて金銭的な投資を行います。そして、ローンチ時点で(おそらくは)いくらかの利益を得たアーリーアダプターの一部は、プロトコルの成功がさらにトークンの価値を高めることを認識しているため、その上にさまざまな製品やサービスを開発していきます。

その後、彼らの一部は成功を収め、新しいユーザーや、もしかするとVC・新しい投資家をもネットワークに連れてくるでしょう。より一層トークンの価値が上昇するとさらに多くの起業家の関心を引き、彼らはさまざまなアプリケーションなどを牽引していくこととなります。

私がこのフィードバックループについて注目していることは、2つあります。ひとつは、初期において如何に成長するかを決定する大部分が、スペキュレーション・ドリブンであるということです。殆どのトークンは希少性がプログラムされているため、プロトコルが成長しへの関心が高まるにつれ、トークンごとの価格とネットワーク全体の時価総額が成長します。ひとたびプロトコルへの関心がトークンの供給量を上回って成長すれば、それはバブルのような高騰を引き起こすこともあります。

他人を欺こうとする詐欺的な計画を除いて、これは良いことです。スペキュレーションは時に、技術的な採用を促進する原動力となります。不合理な2つのスペキュレーション指向 - ブームとバースト(急成長と破綻) - は、技術イノベーションに膨大な便益をもたらしえるのです。ブーム(急成長)は初期の利益を通じて金融資本を呼び込み、その一部はイノベーションに再投資されます(一体イーサリアムのインベスターのどれだけが、ビットコインで得た利益を再投資し、The DAOのインベスターのどれだけが、イーサリアムで得た利益を再投資したのでしょうか?)。

そしてバースト(破綻)は、実際のところ長期的に見ると新技術の採用をサポートしています。資本の流出が起こり価格が下落するにつれて、ステークホルダーはその周辺価値を宣伝し、創造する準備を進めるように見えます。こんにちのビットコイン企業を見てください。一体どれだけが、2013年のクラッシュ後に立ち上げられたでしょうか?

注目する価値のあると私が感じる2つ目の側面は、ループの最後に何が起こるか、ということです。アプリケーションが登場し、(投資家が資本を投じるか、使い勝手が増すかして)初期の成功の兆しが見え始めると、プロトコル・トークン市場に2つの事象が起こります。新しいユーザーの参入でトークンの需要が上昇し、既存の投資家はさらなる将来の値上がりを期待して供給がさらに絞られます。このコンビネーションは強制力をもって価格を後押しし、プロトコルの時価総額も膨張します。そして、新たな起業家と、投資家が参入します。このループは、自律的に繰り返されることとなります。

ぶ厚いプロトコル

このダイナミクスが重要なのは、このような価値スタックの分配方法に影響を及ぼすからです。アプリケーション層の成功が、プロトコル層をより一層ドライブするため、プロトコルの時価総額はプロトコルの上に作られるアプリケーションの価値の合計よりも常に早く成長します。さらに、プロトコル層の価値が上昇すると、アプリケーション層の競争を激化させます。参入障壁を劇的に下げる共有データ層と共に、最終的には活気に満ちた、競争力のあるアプリケーションのエコシステムを形成し、広範なステークホルダーに価値が分配されます。すなわちこれが、トークン化されたプロトコルが厚みを増し(富み)、そのアプリケーションが薄くなる(貧する)ということです。

これは、非常に大きなシフトです。

共有データ層とインセンティブシステムを組み合わせることで、「winner take all」のマーケット構造は変化し、アプリケーション層ではなく、プロトコル層において現在とは根本的に異なるビジネスモデルを持つまったく新しいカテゴリの企業が生まれます。ビジネスの形成とイノベーションへの投資に関するたくさんの確立されたルールは、この新たなモデルには当てはまりません。私たちは今、多くの問いを投げかけていますが、その答えはまだまだ多くありません。しかし、私たちはブロックチェーン・ポートフォリオを通じてこの市場から学び、USVの流儀として私たちの知識を共有していくつもりです。

本記事の翻訳にあたって、許可をいただいたJoel Monegro氏とUSVに感謝します。joel.mn - Fat Protocols

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