鍋底を割ったビットコイン 年末にかけてどうなる?:12月のBTC相場

長谷川友哉
2022-12-02
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Fri
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短期レンジ上抜けと思いきや

10月下旬に発表された、ケース・シラー住宅価格指数やリッチモンド連銀製造業指数といった経済指標の低下や、個人消費支出(PCE)の伸びが市場予想と概ね合致したことで、11月のビットコイン(BTC)は20,000ドルを回復して始まった。2日に最終日を迎えた11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利上げ停止について議論することすら時期尚早と発言したことで、一時はBTC相場も失速する場面が見られたが、10月の米雇用統計で年次の賃金上昇率が低下したことや、失業率が市場予想を上回ったことで、12月のFOMCで利上げ幅が縮小される可能性が台頭し、相場は9月12日ぶりに終値で21,000ドルに乗せた。

これにより、BTC相場は18,000ドル〜20,500ドルの短期レンジ上抜けに成功したが、同時期にコインデスクがアラメダの保有資産情報の一部をリークし、FTXが発行するFTTトークンがその大半を占めていたことが判明。これを受けて2019年の出資時や昨年の株式売却時に巨額のFTTを受け取っていたバイナンスのCZが、市場でFTTを売り捌くとツイッターで名言したことで、FTT相場が下落。BTC含めアルトコインも上値を重くし始めた。アラメダは、当初25ドル周辺で推移していたFTTを22ドルで防衛するとしていたが、8日にFTT相場があっさりと同防衛ラインを割り込み大暴落を演じ、BTCも連れ安で20,600ドル周辺から15,000ドル台中盤まで一気に安値を広げた。

今回の件で顧客資産を無断で流用してアラメダの経営を支えていたことが判明したFTXには、顧客からの出金要請が殺到。結果的に取り付け騒ぎを起こし、出金停止に追い込まれた後、NYでチャプター11の自己破産を申請するに至った。

このFTXショックが起きた直後の10日には、10月の米消費者物価指数(CPI)が発表され、結果は市場予想を下回る伸びとなり、米国債利回りは急低下、ドル円相場急落、米株急伸で市場は反応。BTC相場も9日安値から約17%と大幅反発し、一時は18,000ドルを回復したが、FTXショックが尾を引き買いは続かず、16,000ドル台に押し返された。

20日から21日にかけては、FTXショックの混乱の最中、同社にハッキングを仕掛け資産を不正流出させた犯人、通称「FTX Accounts Drainer」が、盗難によって掌握したイーサ(ETH)の売却や、BTCペッグトークンへのスワップを開始したことで、ETH主導でBTCも下値を模索し16,000ドルを割り込む場面も見られたが、来年の夏に半減期を控えるライトコイン(LTC)相場の急伸に連れ高となり、年初来安値15,611ドルから反発。足元では17,000ドル回復をうかがっている。

ビットコインチャート
第1図:BTC対ドルチャート 日足 出所:Glassnodeより作成
3度目のショック:業界へのインパクトと相場への影響

アルゴリズム型ステーブルコインの「テラショック」、レンディングプラットフォームの「セルシウスショック」、そして業界大手交換所の「FTXショック」と、2022年3度目のショックが起きた。しかも、これまでの報道によればFTXの不足額は1兆円を上回るとされており、Mt.Goxやコインチェックの不正流出事件の被害額とは文字通り桁が違う。加えて、FTXは自社のベンチャーキャピタルを通じた出資や買収を数多く行なってきてきており、大元のFTX破産により、関連企業もサービス停止(Genesis)や破産(BlockFi)とドミノ式に影響が広がっている。暗号資産(仮想通貨)業界で「救世主」的な立ち位置を演じていたFTXのサム・ベンジャミン・バンマンフリード氏(SBF)だが、今回の件でその立場は崩れ、業界の信用にも大きなダメージを与えた。

すでに米国の議会や捜査当局も本件の調査に乗り出していると報じられており、今後は交換業のオペレーションやトークン発行体への規制の厳格化は避けられないだろう。そうなれば、規制の立案、議論から施行まで相応の時間を要することが想定され、業界の信用回復にもそれだけ時間が掛かると言えよう。今後もFTXと関わりのあった企業のサービス停止や破産が浮上する可能性もあり、業界への投資や市場への資金流入にも影響が出そうだ。

一方、BTC相場においてはテラショックとセルシウスショックと比較して決定的に違う動きをしている。まずはショックが起きた直後の下落率だ。前2回のショックでは、BTCはそれぞれ約-23%と-30%ほどショック前の安値を更新したのに比べ、FTXショックでは安値を約-11%ほどしか更新しておらず、比較的下げが限定的だった。加えて、FTXショック直後には、6月から続いた17,600ドル〜25,200ドルレンジの下限を一時的ながら回復している。テラショックとセルシウスショックの後には相場が前回安値まで戻すことはないほど売り込まれていた。

ビットコインチャート2
第2図:BTC対ドルチャート 日足 出所:Glassnodeより作成

これだけ大規模な事件が起きたにも関わらず、相場が安値を11%程度しか更新していないとなると、「下げ足りないのでは?」と疑問を持ってもおかしくはない。ただ、予てから指摘の通り、セルシウスショックが起きた6月以降のBTC相場はボラティリティが低下し、投機的需要も後退し、潜在的な売り圧力も減退していた可能性がある。実際にBTCの投資信託からも6月時点で大量の資金流出が起きており(第3図)、2つのショックを受けて仮想通貨市場からの逃避は幾分進んでいたことが指摘される。

BTC投資信託BTC保有残高
第3図:BTC対ドル(左目盛)、Purpose Bitcoin ETH、The Bitcoin Fund、CoinShares Bitcoin ETHの保有BTC残高推移 日次 出所:Glassnodeより作成
「潮目の変化」より顕著に

また、FTXショック直後に発表された10月の米CPIにBTC相場が反応して大幅反発した点にも注目したい。その後のFTX関連の悪材料で相場は続伸とはならなかったものの、業界に未曾有のショックが走った中でも米国のファンダメンタルズの影響は依然として強いことがうかがえる。

そこで気になるのがFRBの政策舵取りだ。9月のFOMCの時点で積極的な利上げペースには慎重論が、若干、出始めていた訳だが、11月FOMCでは過半数の参加者が、近いうちに利上げ幅を縮小することが適切であることに合意していたことが議事要旨から明らかとなっている。直近のFRB高官の発言からも前月とは違ったトーンがうかがえ、11月にはターミナルレートについての言及や、利下げが開始され得るタイミングについての言及が増え、「積極的な利上げの維持」を推し進めるメンバーは極少数となった。

frb高官発言
第1表:FRB関係者の直近の発言サマリー 出所:各報道機関から作成

勿論、ターミナルレートの目標には依然として意見の隔たりもあり、ハーカー総裁は4.5%で一旦停止を主張するのに対し、ブラード総裁は最大で7.0%まで政策金利を引き上げる可能性を示している。9月のFOMC後に公開された経済見通し(Summary of Economic Projections)では、2023年末時点の政策金利の着地見通しは4.6%とされていたが、パウエル議長やバーキン総裁はターミナルレートが同水準を超える可能性に言及しており、ターミナルレートは最低でも5.0%に達する可能性が高いだろう。ただ、12月のFOMC会合で利上げ幅が75ベーシスポイント(bp)から50bpに縮小されなかった場合でも、2、3月で最小限の25bpの利上げを続ければ、政策金利は来年春先にも5.0%を超える計算となり、インフレ抑制の進捗によっては利上げ停止議論も浮上していることが想定される。

ffr見通し
第4図:FRBの政策金利誘導目標レンジ見通し想定 出所:federalreserve.govより作成

肝心の米国におけるインフレの行方だが、原油価格高騰の過熱感ピークアウトや、東・西岸コンテナ運賃指数の継続的下落、さらに平均時給の伸びもやや鈍化し始めており、製造業の景気指数減速や雇用者数減少など、需要減の兆候も見え始めていると言えよう。12月は年末商戦により、1月に発表される小売や消費関連経済指標に影響が出ると指摘されるが、中長期的なトレンドとしてはインフレの緩やかな減速が想定される。

ちなみに来年のFOMCでは、タカ派的と言えるミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が議決権を持つが、よりタカ派的なクリーブランド連銀のメスター総裁とセントルイス連銀のブラード総裁の議決権がなくなる。また来年は、一旦、4.5%までの利上げで様子見を支持するフィラデルフィア連銀のハーカー総裁が議決権を持つこととなる。

割れた鍋底を試すか

FTXショックの余波は業界に長期的な影響を与えると言えるが、上述の通り、BTC相場は引き続きFRBの政策にも左右されると言え、今月のFOMCが大きな焦点となるだろう。現状では、12月からの利上げ幅縮小が濃厚となっているが、より注目するべきは経済見通し内の来年末の政策金利着地見通しだ。FOMCの経済見通しは四半期毎に発表され、2023年末の政策金利着地見通しは、3月から2.8%、4.4%、4.6%と引き上げられてきた。FF金利先物市場では、来年5、6月にかけて政策金利の上限が5.0%〜5.25%となるシナリオが織り込まれており、12月FOMCの経済見通しでどれだけ2023年末の見通しが引き上げられるかが重要となる。積極的な利上げ支持が依然として大勢であった9月時点で来年の見通しが4.6%の着地予想だったことから、同水準から大幅に見通しが引き上がることは考えにくいが、5%をやや超えてくる可能性はFRB関係者の発言からも想定でき、5.1%前後が妥当な線と見ている(政策金利誘導目標レンジが5%〜5.25%に着地した場合の中央値を四捨五入)。

直近数ヶ月の月次レポートで、BTC相場は「2015年のような鍋底相場」を形成していると指摘してきたが、FTXショックによって相場は「鍋底」を割った格好だ。ただ、指摘の通り相場の下げ幅は比較的限定された他、既に鍋底となった17,500ドル〜25,200ドルレンジの下限付近まで相場は戻しており、FOMCや米経済指標次第でFTXショックの下げ幅を縮小する余地はあると見ている。

著者
長谷川友哉
マーケット・アナリスト

英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。

英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
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