ハッシュレートの悪夢は始まりに過ぎない? 中国の思惑とハッシュレート動向を考察

長谷川友哉
2021-06-10
(
Thu
)

あと9年でピークを目指す中国の焦り

中国の暗号資産(仮想通貨)規制動向は、これまでも度々ヘッドラインに現れ市場に影響を及ぼしてきた。ただ、2017年に突如発表された国内仮想通貨取引所の停止命令もそうだが、こうした強行的な中国当局の対応は一時的なセンチメントの悪化にとどまってきており、業界ではもっぱらデジャブのようにも捉えられている。取引のみならず中国はマイニングにもこれまでメスを入れようとしてきており、2019年4月には中国国家発展改革委員会(The National Development and Reform Commission = NDRC)が仮想通貨マイニングを産業改革案の中で「排除」すべき業界としてリスト入りを検討していた。この件は同年11月に発表された産業改革案で仮想通貨マイニングがリストから除外されたことで一件落着となった。

しかし、今年の中国での仮想通貨を巡る規制事情は一味違う。2月にあった内モンゴル自治区政府発展改革委員会による自治区内のマイニング事業締め出しもそうだが、5月には国務院金融安定発展委員会の方針に則り、仮想通貨取引とマイニングの双方に対して圧力をかけてきた。しかも、今回マイニングに入れてきたメスはこれまで以上に深い。

今回は中国ほぼ全域でのマイニング取締り強化、場合によっては禁止(内モンゴル自治区)と、広域且つ厳格な対応となっており、仮想通貨マイニングに対する総攻撃といったところだ。ここまで中国が躍起になる背景には、2020年9月の第75回国連総会において習近平国家主席が提言した「2060年二酸化炭素排出ゼロ」という目標が大きく関わっていると考察される。この目標では、向こう9年間、つまり2030年までに二酸化炭素排出をピークに持っていくというマイルストーンも含まれており、中国にとってはタイムリミットが迫っていると言える。

また、中国は先進国の中でも年間CO2排出量が増加傾向にあり、世界でのシェアは国内総生産(GDP)第1位の米国や第3位の日本を超えてダントツの1位と、世界的に協調が求められる分野において大きく引けをとっている(第1図)。最新の研究では、2021年第一四半期の中国のCO2排出量は前年比で15%増加し、ここ10年で最も速いペースで増加したというデータもある。これは世界のリーダーの地位を狙う中国にとっても大変都合の悪い事実であり(外交や貿易で不利になることや、海外からの投資機会を失う切っ掛けとなり得る)、中国経済にとっては有用性の限りなくゼロに近い仮想通貨マイニングからドラスティックに是正する方針となったと指摘される。

中国CO2排出量データ
第1図:中国年間CO2排出量(左目盛)、日米中年間CO2排出量シェア(右目盛) 出所:ourworldindata.orgより作成

侮れないハッシュレート動向:9月には一段と低下の可能性も

こうした中国のマイニング規制動向は既知の通りビットコインの価格のみならずハッシュレートに影響を及ぼしている(第2図)。5月上旬には180 Ehash/Sで推移していたビットコインのハッシュレートだが、ビットコイン価格の下落や政府系メディアからの風当たりも強まる中で一時は120 Ehash/Sまで低下していた。6月2日には、四川省にて開催された仮想通貨マイニングに関するシンポジウムを無事に通過したことで180 Ehash/S弱まで戻していたが、足元では140 Ehash/Sと依然として安定した推移とはなっていない。

ビットコインハッシュレート、価格チャート1
第2図:ビットコインハッシュレート、ビットコイン対円チャート(2021年4月〜現在) 出所:glassnode.com、bitbank.ccより作成

ハッシュレートの推移はこれまでもビットコイン価格との関連性が確認されている。2018年11月に当時のマイニング損益分岐点を価格が割り込むと、マイナーが競争から退きハッシュレートを下落させた。2020年5月の半減期では、直後にハッシュレートが急落すると価格は頭打ちとなっていた。どちらのケースにおいてもハッシュレートの安定推移と復調が価格の底入れサインとなってきており、ネットワーク系のデータは先行指標として侮れない(第3、4図)。

よって、この先もハッシュレート動向が重要な指標の一つとなると考えられる訳だが、足元では価格以前にこのハッシュレートの先行きに大きな暗雲が立ち込めている状況であり、これがビットコイン への資金流入の妨げとなっていると指摘される。問題となっているのは四川省をはじめとして仮想通貨マイニングを具体的にどう取り締まっていくかが明確になっていないことだ。内モンゴル自治区では既にマイニング禁止が決まっており、他の地域や国外に逃避するマイニング業者も散見される。ただ、その他の主要マイニング・ハブとなっている四川省や新疆ウイグル自治区からは公式な方針が発表されていない。6月7日付のChina Macro Economyによれば、四川省は雨季に水力発電で生産された過剰電力を今年もマイナーに利用を許可する一方で、業者に対して9月までに撤退準備をするように通達したとのことだが、これも公式の情報源ではない。

言い換えれば、ハッシュレートには依然として低下する余地が残されていることになる。第1図からもわかるように、中国の一地域でマイニングに支障が起きた際のハッシュレートと価格へのインパクトは過小評価できない。奇しくも、中国でのマイニング取締り強化の影響もあってか、中華系マイナーが占める世界のハッシュレートのシェアは低下傾向にあるのだが、それでも昨年末時点でのシェアは65.08%と過半数を超えている。

ビットコインハッシュレート、価格チャート2
第3図:ビットコインハッシュレート、ビットコイン対円チャート(2018年10月〜2019年4月) 出所:glassnode.com、bitbank.ccより作成
ビットコインビットコインハッシュレート、価格チャート
第4図:ビットコインハッシュレート、ビットコイン対円チャート(2020年4月〜2020年8月) 出所:glassnode.com、bitbank.ccより作成

よって、中国のマイニングに対する方針が固まるまでは比較的に大きなリスクファクターが市場にのしかかっている状態が続くこととなる。仮想通貨界隈に長くいる市場参加者は、それほど中国の規制動向を気にせずに長期目線で「Buy the Dip(安値拾い)」が鉄板となっている模様だが、こうした状況では新規の流入はあまり期待できないと考えられる。

出る釘は打たれるが、熱りはすぐ冷める?

勿論、中国が仮想通貨マイニングの取締りを強化することでポジティブな影響もある。内モンゴル自治区でのマイニングは化石燃料への依存が高いとも言われており、同地域のマイニング禁止は環境にポジティブだ。また、中華系マイナーの解体によるハッシュレートの分散化も期待できる。2年前まで中華系マイナーのハッシュレートシェアは約75%と圧倒的であったが、昨今では10ポイントも下がっており、環境意識の高い欧米系マイナーの台頭も相まってハッシュレートの分散化はこの先も進行しそうだ。

とにかく中国の規制方針が早い段階で消化されるのがベストなシナリオな訳だが、環境懸念という観点では、「出る釘は打たれる」というのはビットコインだけではない。昨今のビットコインに対する環境面の批判で「ビットコインだけが攻撃を受けている」という印象を持たれる市場参加者も少なくなかろうが、例えば、昨年金(ゴールド)が1オンス=2,000ドルを超えた際も産金業界に対する環境汚染批判は散見された。ただ、面白いことに、金価格がその後失速すると、メディアでこうしたことが取り上げられることも減っていった。第5図を見てもわかるが、人々の関心も相場と連動しているようで、「Gold Environment」のキーワードのグーグル検索トレンドは、昨年9月に相場が頭打ちとなると同時に低下している。そして、先月(21年5月)に相場が5ヶ月ぶりの水準に回復すると、グーグルトレンドの指数も反発していた。

ゴールド、ビットコイングーグルトレンド

第5図:「Gold Environment」、「Bitcoin Environment」のグーグルトレンド検索結果 出所:trends.google.comより作成

何が言いたいかといえば、ビットコイン以外のアセットクラスでも出る釘は打たれるということと、人々は忘れっぽいということで、ビットコインも高値からの下落によって環境汚染批判の熱りが冷めるのは時間の問題と見込まれる。反対に言えば、こうした批判は相場の起伏によって注目されては忘れられるというサイクルとも言え、この先ビットコイン相場が回復した際には昨今同様に掘り返されると想定できるため、ヘッドラインを注視することで相場動向を掴む上でヒントにもなるということだ。

まとめ

以上を踏まえると、①中国広域での仮想通貨マイニング禁止の可能性でハッシュレートの更なる低下余地が生まれ、相場への作用が警戒されることと、②環境保全の観点を意識した仮想通貨への懸念という点において短中期的には新規マネーの流入フローが後退する可能性がある。①については、中国が方針を固めることと四川省マイナーの移住を市場が消化する必要があり、長ければ9月まで警戒感が払拭されない状況が続く可能性がある。②については第5図を見ても明白だが、足元、既に関心度は相応に低下しており、それほど影響は長期化しないと見込まれる。

世界的なインフレ高進懸念の台頭やビットコインを法定通貨にするといった動きもある中だが、ビットコイン相場が復調し最高値を更新するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

著者
長谷川友哉
マーケット・アナリスト

英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。

英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
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