仮想通貨分離課税の実現可能性を考える


こんにちは、氷犬です。
平成29年分の所得税(及び復興特別所得税)の確定申告期を終え、仮想通貨に関する税法改正の声が強まってきました。現時点で多い意見としては以下の3点です。
- 総合課税から分離課税へ
- 少額決済の非課税化
- 仮想通貨同士の交換の課税繰延べ
今回は①の「仮想通貨による所得を分離課税とすべきである」という意見について、仮想通貨分離課税の実現可能性を既存の税制と比較して考えてみます。
所得税法上の所得とは何か
所得税は、「所得」に対してかかる税金のことです。つまり、所得というものをまず考える必要があります。
所得とは、収入金額から必要経費を引いて残った金額のことです。例えば、100万円で仕入れたものを200万円で売れば100万円の利益が出ます。この100万円の利益が所得となります。簡単にいえば、所得とは利益・儲けのことです。損失のことはマイナスの所得と言ったりします。
所得という言葉は所得税法上に定義されていない言葉ではありますが、「個人の所得をどう捉えるか」ということは仮想通貨に限らず、税法を解釈する上では重要な事柄の一つです。
総合課税と分離課税の比較
所得税法においては、所得を発生原因や性質によって10種類に区分しています。利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑の10種類です。
所得を10種類に区分した後、その所得を再度まとめた状態で、あるいは、区分した状態で税率をかけ、所得税の額を算出します。区分した所得を再度総合して税率をかけることを総合課税、所得を区分したまま税率をかけることを分離課税といいます。
総合課税には次のような特徴があります。
- 原則的な課税方法である
- 累進税率を適用する(所得税5%~45%)
- 一部の所得については損益通算が認められている
一方で、分離課税には次のような特徴があります。
- 総合課税と比較して、特殊な課税方法である
- 所得に応じた固定税率が定められている(所得税15%・地方税5%など)
- 他の所得との損益通算が認められていない
分離課税が適用される所得には、土地や建物の譲渡所得、株式等の譲渡所得、先物取引等による雑所得などがあります。
なぜ、これらの所得には原則としての総合課税ではなく、特例としての分離課税が認められているかというと、「所得の額が大きくなりがち」「恒常的な所得でない」「金融商品である」というような特徴があるからです。
仮想通貨による所得が雑所得に区分されることによって、投資家が市場に参入しにくくなるという懸念は度々指摘されていますが、それと同じようなことが過去に起こっているわけです。株式やFXに限っていえば、国策として投資活動を奨励するため、つまり政策上の配慮として分離課税としているのです。
仮想通貨による所得は分離課税となり得るか
平成29年12月1日、国税庁のホームページで「仮想通貨による所得は雑所得として総合課税の対象となる」旨の文書が公開されたのは記憶に新しいかと思います。僕個人としては、雑所得の総合課税がいつまでも続くとは思っていません。いずれ、株式やFXと同様に分離課税となる可能性は高いでしょう。しかし、1,2年で実現するほどのスピード感があるかというと、それは希望的観測というほかありません。
ここで、他の金融商品の例として、FX(外国為替証拠金取引)について振り返ってみます。
FXは2000年前後にその仕組みが立ち上がり、2005年に金融先物取引法が改正され、FXを扱う業者の登録が義務付けられました。そして、2009年に信託保全が義務化され、投資家の保護が図られます。このように投資家の資産を守る仕組みが整えられた上で、2012年にFXによる所得は分離課税となりました。
FXの流れは仮想通貨にも同じことが言えるはずで、まずは投資家の資産保護が最優先事項になります。現状は国内の仮想通貨交換所・取引所を提供している業者に対し、金融庁が随時業務改善命令を出している段階です。少なくとも、金融庁による投資家の資産保護体制の構築が終了するまでは、仮想通貨分離課税の実現は難しいと言えるでしょう。
また、仮想通貨は取引所間を移動させることができるなど、既存の金融商品(株式・FX)とはその性質が異なります。そもそもの性質が異なるものを既存の税制と同じように扱ってよいか、という問題は非常に重要な問題であり、課税当局としては慎重にならざるを得ないと思います。
もちろん、仮想通貨テクノロジーは将来的に有望であるため、国の税制によって技術発展が阻害されることは望ましくありません。しかし、国が一技術の将来性を見極めた上、その発展に向けて舵を取ることが容易でないことは明らかです。特に日本においては、その傾向が顕著であるかもしれません。
したがって、「仮想通貨による所得は分離課税となるか」という質問に対しての回答としては、「将来的にはそうなる可能性が高い。しかしそれは1,2年で実現するものではない」という形になるでしょうか。その実現までのスピードは、仮想通貨に関する技術の発展と比例関係にありますが、一方で既存の税制が技術発展のボトルネックになり得る可能性も大いにあります。
これは仮想通貨界隈だけでは解決できる問題ではないため、会計税務サイドを巻き込んだ上で要請していく必要があります。ただ、仮想通貨の分離課税は一時的な解決策であって、その場しのぎでしかないと個人的には思っています。
将来的には「少額決済の非課税化」「仮想通貨同士の交換の課税繰延べ」を実現する必要があり、もっと言えば「仮想通貨による取引自体の非課税化」が根本的な解決策になります。それまでは税法改正を強く望むよりも、自動的に所得計算を行う決済可能なウォレットを開発するとか、既存の税制に適合したアプリケーションをユーザーが作ることが良いと思います。
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